立ち位置確認

言うまでもない。理想を持たない自称「現実主義者」は、実際の所ただの迎合主義者に過ぎない。理想は斯くあるべきだが現実はこうだ、というところから現実主義は始まる。

理想は高く。現実に手の届くところにしか理想をおかないのは、単なる想像力の欠如である。理想への道筋と実現可能性の範囲の交わるところに、おくべき目標がある。

私の理想は単純明快だ。すべての知性体が果てしなく幸せに思考し、活動し、感覚し続けること。

だが、現実は違う。たくさんの問題がある。少数者は抑圧される。現存する人間へのリソース配分は最適化されていない。最適化しようものなら今の先進国で実現されている思考水準は担保できない。ほんの数十億年で今の形態の私たちはこの星には住めなくなる。たった数百億年で私たちはこの宇宙に住めなくなる。

だから、こみいった問題を解きほぐしていかなければならない。人間が自己の知性リソースを活用するだけで生きていける仕組みを作らなければならい。知性活動を維持するためのコストを効率化し、入手可能なリソースは拡大しなければならない。星への道を確保しなければならない。時空を操作する術を覚えなければならない。

そう、死だ。経験を積んだ知性構造が私たちの社会から失われて良いものか。「100年後にはここにいる人たちはみんないないんだね」という言葉を私はとても腹立たしく聞いたものだった。ライフログ。経験情報の記録は精密化していくだろう。携帯端末。人間は限りなくつながっていたいのだ。技術ができれば人間はネットワーク化されるだろう。再生医療ナノテクノロジー。現存する人間は、永遠に鮮やかに記録され検索され演繹され外挿されうる可能性がある。今生きている私たちは、ひょっとしたら永遠に生きる可能性がある。それは無理でも、これから生まれる子供たちにはその可能性がある。

それを私が実現できるか? いや、とても困難だ。だが、私はそのために活動する。

性同一性障害者がその性自認を有するが故に経験の幅を狭められ、自己の可能性を否定的に評価し、あるいは侮蔑されること。これは許し難い。だから私は変革する。でも、このたった1つの問題ですら私が1人で解決することは難しい。私にできるのは、ロールモデルを提供すること。マジョリティに対して豊富なロールモデルが提供されていてその土台の上に子供が夢を持つことができるように、私は土台の一部を構築する。そのために、私は私の経験情報をDumpする。

私が提供する経験情報は、とにかく私が生きたという情報でありさえすればよい。性同一性障害者にもそういう生き方がある、という1つの可能性を示せば良い。私にできるのはそういうことだ。こういう塵のような情報が積もり積もって、マジョリティには豊富な可能性が提示されているのだから。

そうだとすると、私はなにをすればよいのだろうか。何をしてもよいのだから。そうして生きて生きさえすれば私の目標は達成されるのだから。

人間が知的リソースによって生きていけるようにすること、人間をそれ自体として永遠に記録すること、人間に不死を与えること。どれも今の私の手には余る。特に、再生医療ナノテクノロジーはその基礎教育を受けていない私には難しそうだ。でも、私はWebプログラマーとして活動してきた経歴があって、その先にはいくつかの可能性がある。人間をより精密に記録し、再生する可能性。リソース配分を最適化する可能性。リソースの生成を効率化する可能性。ソーシャルグラフ、ネットワーク上のコミュニケーションと経済活動、メタ情報。そのための、線形代数計算の効率化、情報化の徹底、開発コストの削減、開発環境の整備、agile、web、web、web。

そういうわけで、私は「A Mad web programmer (wannabe)」を名乗って活動する。まずは人間の活動をネットワークに引きつけてそこを人間の世界にするために、面白いサービスの構築を目指したり、基礎技術をいじったりする。そして、その過程で生じた情報を記録する。私は私をDumpする。

これが私の現実主義だ。すべては理想のために。

関連項目

おすすめ順。