『 大日本天狗党絵詞 』は、その物語自体がなんとも天狗のように掴み所のない、分かったような分からないような、と感じていた。
けれども、突然得心がいった。これってHackerのことじゃないか。
三界に家を持たず、人と交わっては数多の不可思議な術で惑わせ、人の目を離れては惨めにさすらう。
寄るべき所を欲せばそれは既に天狗でなく、それを天狗と呼ぶ人がいなければ天狗でなく。
人が切り開く山々は元来天狗のもの。人が認識するこの世とは天狗もまた棲まうもの。けれども、そこにもう天狗の伝説を聞くことはない。
なんだ、Hackerじゃないか。物語の終わりは酷く荒れ果てた場面となる。けれども、天狗が人のような安寧を求めなければ、あるいは人が世の中には天狗という不思議もまたあるのだと忘れず山を侵さないでいればこういうことはなかったのだ。
それでも時代は移り変わり、起こるべき終局は起こり、最後には奇妙な希望だけが残る。
- 作者: 黒田硫黄
- 出版社/メーカー: 講談社
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