散歩

友人と会った。彼女が地元に帰ってきたのは久しぶりで、2人で少し歩いた。私も、地元を歩くのは久しぶりだ。普段は家に閉じこもっているか都内に出てしまうかどちらかなので、毎日帰ってきている地元なのになんだかとても懐かしい。

田んぼが広がる中を歩いて、少し離れた幹線道路に出て、ファミレスに入った。

彼女は私の友人の中でもかなり古い方だし、その間に色々なことあった。だから、ある意味で彼女は、私がGIDを自覚せずに性別違和感や女性性を押さえ込もうとする過程で最も心を偽ってきた相手でもある。色々な感情経験をともにして仲良くしてきたからこそ、私はその面に於いてだけはかえって本心を見せられなかった。そして、偽ったままに彼女と私との間には膨大なエピソードが横たわり、強固な関係性が構築されてしまっている。

……という訳で、彼女にカムアウトして今の私はGIDに関して開き直ってはいるけれど、彼女との関係の再構築は難しいと思われた。カムアウトと開き直りを通じて、私は彼女から見て以前とは少し違った人間として見える筈で、だからこれから先うまくやっていく為には是非とも「今の、開き直って素に戻った私」との関係性を新たに作っていってもらわないと困ると思うのだけど、そのためには今までの関係を書き換えなくてはならないから。

でも今、それは意外にうまくいっているように思う。なんだか、とてもうまくいっている。理解されている、と感じる。

カムアウトは「押しつけ」の面を持つと前に聞いた。それは、それまでの歳月の長い相手であるほどに、相手が理解してくれようとするほどに、相手に負担を強いることでもあると。そういう意味で、彼女には少し申し訳ないな、とも思う。

でも、だからといって現状が間違っているとも思わない。私にとって、GIDの苦痛はもう限界だったわけだし。開き直ってガイドラインに沿った治療を受けていく過程で彼女との縁を切るなんて嫌だったし、今、性別違和感や女性性やそれに伴う色々な気持ちを押さえ込むことなく、自由に思考し世界を感じられる状態で彼女と関われるということを嬉しく思う。私にとっての世界は昔とは比べものにならないほど豊かで色とりどりで新鮮で、その中で見る彼女は以前にも増して大切で……。

とにかく、ありがとう。大好き。