コスト削減のための情報システム

情報システム開発にはその種類に応じていくつかの目的がある。とりあえずこの場で問題にしたいのは次の2つの種別だ。

  • 今まで実現できなかったことを実現するためのシステム
  • コスト削減のためのシステム

でも、後者って、下手をすれば作業者搾取構造への荷担に陥りかねないと思った。

今まで実現できなかったことの実現とは、従来は時間的・空間的から間に合わなかったような情報処理を機械に任せることによって新しい需要を創出したり、従来は経済的に採算が合わずに実現不可能であったような情報処理を、ランニングコストの安い自動処理によって実現し、供給を可能とする。

一方、コスト削減のためのシステムとは、従来も人間の手で可能であったような処理を機械に移すことでランニングコストを削減するものだ。その人間的曖昧さや程度の差はあれ創造的側面を持っていた部分を抽出しシステム化する。これにより、従来は熟練を要した作業をマニュアル程度で済む作業に置き換える。個別の判断を要した部分は十分に抽出されているので、ソフトウェアが対処するか、もしくは少数の創造的作業者が対処すれば足りる。

コスト削減のための情報システムとは、処理効率に劣る創造的作業を、効率に優れる反復的作業に置き換えることである。私には信じがたいけれども、非創造的・反復的な作業(非・ハッカー的作業)を好む人間というのは居るわけで、別にそれはそれでいいじゃないかと思っていた。そして、彼らの仕事領域を広げるための開発も、「自分は絶対やりたくない仕事」を創出しているわけだからある意味で自分の首を絞めているというか、皮肉なものがあるけれどもまぁいいじゃないかと思っていた。

さて、どうだろう。 NHKフリーター漂流を見たあるフリーターの意見 というのを読んで、ちょっと考えた。その記事で語られているNHKの番組が扱ったのは製造業における請負の実態であるらしい。サービス業はまた違うかも知れない。でも、究極的には同じところに辿り着くんじゃ無かろうか。より生産性の高いシステムを構築するほどに、そのオペレータとして必要とされる人間の要求水準は下がり、その賃金は下がる。そういう形でのコスト削減を私は提供してきた。私は結局フリーター搾取にある意味で荷担しようとしていないか。権限だの職務だのはともかく、労働経済白書あたりの統計処理上は私も今のところフリーターなわけなのに。

じゃあどうするかというと困るのだけれど。人間から機械に抽出できるものはするとして効率を上げ、人の手による暖かみのある扱いが必要であればそういうところには人間を配置して、トータルとしてよりよい情報取扱システムを作り上げるのが私の仕事であるから。本質的に機械化可能である部分を現状人間の曖昧さに頼っているからといってそのままに、システムの中に非効率な放置するのが正しいとは思えない。属人的なプロセスを抽出してソフトウェア化を以てその財産を共有し、非属人的プロセスに変えるということが間違っているとは思えない。結局、私の仕事のレベルではどうしようもなくて、社会全体でセーフティーネットをもっとしっかりしないといけないよとか、非正規雇用者の給与や保険を正規雇用者並に近づけよとかいう話になってしまう。

でもねぇ、なんか気分が悪い。自分が間違っているとは思ってないし、自分の仕事に誇りを持っているし、少なくとも現状に於いて直接的に搾取している訳ではないけれど、巡り巡って誰かを踏みつけにしていそうな感じというのがどうも。ひとつ、『 希望格差社会 』でもちゃんと読んでみよう。