海を見る人

海を見る人 (ハヤカワ文庫 JA)

海を見る人 (ハヤカワ文庫 JA)

遠野物語はお好きでしょうか。
相対論を愛していますか。
ギリシャ神話無しで生きられますか。
量子力学を感じていますか。
ミルトンは、ホメロスはいかがでしょう。
超対称性は、M理論は。

ならば、お奨めです。

「神話的」ということ。簡潔さの中の力強さ。日常からの逸脱。荘厳。残酷。神秘。歴史。
多すぎない、少なすぎない。
パルテノン神殿と黄金比と円周率。天空の階律が奏でられる。そういうもの。

神話的SFの中で私が今までに気に入っていたのは『戦争を演じた神々たち』だった。
澄み渡って重厚な大原まり子の文体。語られる戦争、誕生、存在と時間と、死。死。死。

今、私の中で、『海を見る人』はそれと並んだ。

表題作を読んで思った。愛していたけれど、でも相対論がこんなに切ないなんて。
小林泰三の緻密で奔放な想像力と、語られる物理と寓話と純愛。
私は初めて、光速度不変を心で感じた気がする。

光円錐の内と外とに満ち溢れるいとおしさよ。